軍隊の規律を維持する立場の憲兵らが事件をおこす - 嘉手納基地憲兵隊兵長ら三人が沖縄市でタクシー強盗
タクシー強盗事件に米憲兵関与か、沖縄県警が任意聴取
[読売新聞 2008年4月5日]沖縄県沖縄市で3月、タクシー運転手を殴って釣り銭箱を奪ったとして、在沖縄米兵家族の少年2人が強盗致傷容疑で4日再逮捕された事件で、県警沖縄署が共犯として捜査を進めている3人のうち1人は米空軍嘉手納基地憲兵隊の兵長(21)で、米軍の監視下にあることが米軍関係者の話でわかった。
同署は米軍の協力を得て、これまでに数回、任意で事情聴取を行った。
同署の発表によると、再逮捕した少年2人は沖縄市の男子高校生(16)と住所不定の無職少年(15)。3月16日午前0時20分ごろ、同市中央2の市道でタクシーを止め、荷物をトランクに入れようと車外に出た男性運転手(55)の頭を殴って転倒させ、ひざにすり傷を負わせた。さらに車内の釣り銭箱(約8000円入り)を奪って逃走した疑い。
同日午後10時過ぎ、同市南桃原の市道で、外国人風の少年2人が別のタクシー車内から釣り銭箱(5400円入り)を盗む事件が発生。同署は高校生を同日深夜、無職少年を同18日、それぞれ窃盗容疑で逮捕し、追及していた。同署幹部によると、2人の供述から強盗致傷事件で3人の共犯者が浮上。うち2人は別の米兵家族の少年(いずれも19歳)と特定し、同署は逮捕状を取った。2人は基地内に居住している。
日米地位協定では、軍人・軍属の家族については容疑者の身柄引き渡しの規定がない。このため、身柄を引き渡すかどうかは米軍の裁量に任されているという。現時点で米軍は2人の身柄を拘束しておらず、同署は米軍に捜査協力を要請している。
一方、憲兵隊の兵長については、県警幹部は「事情聴取できており、無理に起訴前に身柄の引き渡しを求める必要はない」としている。
米兵の秩序維持に携わる憲兵隊員の関与の疑いに、3月23日に沖縄県で開かれた「米兵によるあらゆる事件・事故に抗議する県民大会」の玉寄哲永(たまよせてつえい)実行委員長(73)は「前代未聞で、事実なら綱紀のたるみが著しい」と批判した。
http://www.okinawatimes.co.jp/day/200804171300_07.html
社説(2008年4月17日朝刊)
[憲兵隊の不祥事]
逮捕権の明文化を急げ
米軍人や軍属の規律を維持、守るべきはずの在沖米軍憲兵隊の事件や地元との摩擦が健在化している。
沖縄市内で起きたタクシー強盗事件では、嘉手納基地所属の憲兵隊兵長が強盗致傷容疑で書類送検され、今月十三日には北谷町の衣料品で万引した海兵隊員の息子二人を憲兵隊が拘束し、基地内に連れ帰った。タクシー強盗事件では、共犯の少年たちが供述している「事件の中心的役割」を憲兵隊員が担ったことが事実であれば由々しき事態だ。折も折、在日米軍施設の多くを抱える県内や神奈川県で米兵に絡む事件や事故が相次ぎ、組織の綱紀粛正が叫ばれているさなかである。
日米両政府が声高に唱える「再発防止策」を最も敏感に感じ取り、実践すべき憲兵が、犯罪に手を染めてしまったのでは開いた口がふさがらない。
心配なのはそれが一般兵に与える影響だろう。規律違反を監視、監督する側がそれを犯すとなれば、最低限あってしかるべき基地の外との緊張感が緩むことも想定される。
県民の立場から見ればあらためて不安や不信が増幅される結果しか導かないことになる。
さらに、容疑者の憲兵がいまだに米軍当局の手中にあることも看過できない。
「特権」とも呼ぶべき日米地位協定では、日本の司法当局が公訴するまで、被疑者米兵の身柄を移すことができない。それに応じるか否かは米側のさじ加減一つで決まる不条理さである。
今回の事件では被疑者が一定の期間、基地内を自由に行動していたとも指摘されている。その間に口裏合わせなどの証拠隠滅や逃亡を図ることさえ可能になる。県警は被疑者が米軍の管理下にあり、事情聴取も遂行できることから逮捕状の請求を見送っている。
ただ、それはあくまで「政治的」な判断ではなかろうか。逮捕状を取り、引き渡しを求めれば拒否される可能性が高い。地位協定の運用で米側が応じるのは殺人や強姦など、凶悪な犯罪に限られているのが実情だからだ。
拒否された場合の日米間の政治的な混乱を避ける狙いが透ける。昨今の米兵事件でその風潮が生まれつつあるのは憂慮すべきことだが、捜査員の間からは「十分な捜査をするために身柄を取ることが最善なのは当たり前」だという声が漏れてくる。
それよりもむしろ、日米間の安全保障上のひずみから生まれる問題を警察の判断に任せることに問題がある。
北谷町の万引事件で憲兵が少年二人を連れ帰った問題も地位協定に軍人家族の位置付けがあいまいにされていることに原因がある。
昨年三月末の防衛省統計で、家族を含む在日米軍関係者が約九万二千人いる。その半数の約四万五千人が居住する沖縄は、同様の問題が繰り返される可能性が高い。
自国の兵士の人権を盾に、駐留国の人権を脅かす矛盾を両政府はいま一度考え、逮捕権の枠組みを明文化する必要がある。